以下は昭和三十年六月十八日に開かれた国会法務委員会での神近市子理事と小泉純也法務政務次官、内田藤雄入国管理局長とのやりとり。
会議案件は出入国管理令の一部を改正する法律案(内閣提出第一〇六号)
当時の日本が韓国人の密入国問題にいかに悩まされていたか、苦しんでいたかがうかがえる。
『手段方法を選ばず、命がけでも密航をして、方法さえつけば怒濤のごとくどんどん入ってくる。そしてこちらから強制送還をしようといたしましても、韓国の政府がこれを容易に受け付けない』
『こちらから、密航した者を密航したという確証をあげて韓国に申し入れましても、その送還を容易に受け付けない、こちらは向うから出てきた者を受け入れっぱなし、不法入国であろうが何であろうが、返すことができないで、大村収容所にはますます人員がふえていく、それをみな国費で、国民の血税で養ってやらなければならない、その取扱いについても、きわめて懇切丁寧にしなければ、人権じゅうりんというような問題まで起きてくる。』
(小泉政府委員)

○小泉政府委員 韓国人が、日本に生活をしたい、また戦争中疎開いたしまして、子供が日本に在留しておられる両親のもとで生活をしたいと申して、その手段方法を選ばず日本に入ってくるというようなことは、ただいま神近先生がおっしゃいましたように、人道的な問題といたしましては、夫婦を一緒に生活させ、親子を一緒に生活をさせたいということは、管理局の取り扱われる方々も常にその苦衷を訴えておられるのでございます。私どもも最初、両親が日本にいて子供が日本に入ってくる、かわいそうじゃないかというような考えを持っておったのでございますが、いろいろと実態に触れて研究をして参りますと、人道的、人情的には非常に忍びないものがございますけれども、それがあまりにも数が多い。最近においては、子供だけ三十人くらいの団体を連れて密航をして、大人だけは完全に逃げてしまっている、がんぜない子供だけがつかまっておるというような事実もありまして、この取扱いには非常に係の者も苦慮いたしておるようでございます。神近先生がおっしゃいましたように、日本に住まいたい者を住まわせて、韓国に帰りたい者は返す、こういうふうに参りますと事は最も簡単で、いろいろの難問題が漸次解決をするのでありますが、問題はそう簡単でなく、極端かもしれませんけれども、六十万と推計をせられる朝鮮人のうち、日本から母国に帰りたいという者は一人もいないといっても大した言い過ぎではない。一方向うからは、入れれば、それこそ手段方法を選ばず、命がけでも密航をして、方法さえつけば怒濤のごとくどんどん入ってくる。そしてこちらから強制送還をしようといたしましても、韓国の政府がこれを容易に受け付けないというところに、人道問題だけでは解決しない大きな国と国との外交問題と申しますか、もう入国管理局だけでは手に負えない大きな外交問題となってここに横たわっておるのは、私が申し上げるまでもなく、御理解をいただいておると思うのであります。ですから、要するに、こちらは国際的ないわゆる紳士としての態度をもって韓国に接しましても、韓国の方は、紳士的でないとは申しませんが、御承知の通り李承晩ライン、その他漁船の拿捕の問題、こちらから、密航した者を密航したという確証をあげて韓国に申し入れましても、その送還を容易に受け付けない、こちらは向うから出てきた者を受け入れっぱなし、不法入国であろうが何であろうが、返すことができないで、大村収容所にはますます人員がふえていく、それをみな国費で、国民の血税で養ってやらなければならない、その取扱いについても、きわめて懇切丁寧にしなければ、人権じゅうりんというような問題まで起きてくる。これを大まかに考えますと、一体日本のためにやらなければならないのか、日本国民の血税の犠牲において、韓国人をまず第一義として大事にしてあげなければならないかというようなところまで、考え方によっては行く問題であると私は思うのであります。最近において法務大臣も申し上げました通り、何とかこの問題を根本的に解決しなければならないと思います。私が政務次官に就任をいたしましてからも、一、二の有力な韓国人の団体の長の方で、私に、密入国者を送還するとかしないとかは問題ではなくて、六十万人という朝鮮人が日本に在留して現存しているというこの現実に立って、在留朝鮮人の問題やこれから入ってくる人々の問題について、出入国管理令というようなこまかい規則を越えた根本的な対策を政府は立てる必要があるではないかというようなことで、非常に傾聴すべき御意見を言ってこられた人もございます。近くは、私に、一つ法務省の政務次官として、外務省、入管の当事者とわれわれ朝鮮人の団体の長という首脳部との懇談の機会を作ってくれないかというような申し出まで最近ありまして、どういうふうにそのことを進めようかと私は考えておるのでございますが、要するに最後の決着は、日本と韓国との外交関係を正常な軌道に乗せるということがなければ、根本的な解決はできないのではないかと思います。最近におきまする韓国人の強制送還等の事務折衝の経過にかんがみますると、なかなか正常化というものは容易ではなく、日本に対する韓国側の態度はますます悪化するのではないかと憂えしめる情報がむしろ多くて、向うの密入国に対する取締り、こちらからの送還をスムーズに受け付けていただくというような話し合いが、円満に好転をするという見通しがきわめて少いのを私は遺憾としておるのでございます。的確かどうかわかりませんが、最近の情報によりますれば、今の金公使が、韓国のいわゆる代表部と申しますか、そういうものを場合によっては引き揚げるのではないかというような憂うべき情報すら私個人は最近耳にいたしておるのでございまして、何とかこれは、鳩山内閣の手によって日本と韓国との間を外交的に大きく打開をしていただき、その線に乗って入国管理局としての仕事をより以上合理化すと申しますか、今仰せられましたように、できるだけ人道的な取扱いができ得るような軌道に乗せることを熱願いたしておる次第でございます。
○神近委員 私この前の委員会に出なかったものですから、花村大臣のお話しは承わっていないのですが、在野当時はあれほど御熱心であったのがどうなさったのかというのであなたにお尋ねしたわけで、そういう案をお持ちになるということは大へんありがたいと私は思います。それはぜひあなたが積極的に早く片づけなくちゃならない問題だということを御認識下すって、ごあっせんをしていただきたい。やはり金公使の要求は、久保田発言の取り消しにあるようです。それからもう一つは残留財産の請求権取り消し、これは非常にむずかしいかと思うのですけれども、私少くもその中の久保田発言だけはあれは言い過ぎに間違いないのです。ああいうことを言わなくても交渉はできる場合に、あの方が発言なさったので、こういうふうに二年も三年も停頓状態にきているということから考えましても、あれはそう面子になんかおとらわれなさらないで、あっさりとお取り消しになるべきだ。規格にはまったようなさようしからばの外交方針、やり方というものは、もう世界的にはやらない時代にきている。帝国主義時代の残滓をいつまでもわれわれが残しておくのはいけない。個人でもそうですけれど、役所の考え方でも私は同じだと思うのです。ああいう取り消してよいことはあっさりと取り消して、そうしてできるだけ妥協の線で私は外交というものはやるべきだと考えるのです。それでそのことはあなたの御尽力に御期待申し上げて、ぜひとも一つその朝鮮人の団体としかるべき日本の方々との間で解決策を見出していただきたい。
もう一つ伺いたいことは、この間から北鮮の方から赤十字社に呼びかけて、そうして残留日本人を返す用意があるということが放送されておりましたね。そのことについて何か対策をお考えになったことがあったのでしょうか。それをちょっとお尋ねします。
○小泉政府委員 先ほどの久保田発言その他を一つの動機といたしまして、日本と韓国との国交関係が非常にうまくいっていない、そういうことが私どもの仕事であります出入国管理の問題に重大なネックになっているというような神近先生の御意見はごもっともでございまして、私の方からも外務当局にまず外交関係をば打開してもらわなければ、われわれのやっておる出入国管理の仕事も、うまくいかないのであるということは、再三申し入れまして、外務当局にその打開をば熱望をいたしておるところでございます。今後とも今の神近委員の御見意をばとうとい参考といたしまして、事ある機会に要請をいたしたいと存じます。
ただいまの日赤を通じての日本人の向うに在留している者を返す問題につきましては、これも外務省の関係の仕事でございまして、外務省の方ではこれに対していろいろの問い合せをし、事を進めたいということをば努力しているということだけは、管理局に報告があり連絡になっておりますけれども、具体的なことは今の段階ではこちらの所管でございませんで、外務省の方でまずやっていただいて、その交渉が具体化したあと、私どもの方の仕事になって参るわけでございますから、その点についても十分御意見に沿いまするよう外務省と連絡を密にいたしまして善処していかなければならないと考えている次第でございます。
○神近委員 その御努力をなさるうちに月がたって年がたつというのが今までの状態で、八年も九年も問題は解決していないのです。ですからほんとうに一つのアイデアをお持ちであるならば、もう少し張り切ってそれを推し進めていただきたい。
それからさっき一人も韓国に帰りたい希望者がないというようなことをおっしゃった。それは韓国に帰る希望者はないかもしれません。しかし北鮮に故郷を持っている人たちの中で帰りたいという要望は、この三、四年強く出てきておる。私は大村に千三百人もかかえて国費を年間一億何千万も使っておるということがもったいないくてしようがない。それでその人たちが仕合せであるかどうかというと、これはまことに悲惨な状態にある。そういうことを三年も四年も五年も見過ごしにできないというのが国民一般の考え方だろうと思うのです。それで一人も帰りたい人のいない韓国のことは一応暫定的に国交の再開を待つといたしましても、少くとも三千人余りの学生とそれから技術者だけでも帰してもらいたいということは要望がきておるはずであります。北鮮から四十何人とかごく少数でございましたけれども、これは受け取らなければならないはずであって、それを受け取る場合に、自分たちの受け取ることだけ考えないで向うに返すということも同時的に考えることはできないかということでございます。これは国際的な問題ですから韓国の感情というようなことも考慮すべきではございましょう。ですけれども、どうしても韓国が話に乗らないと申しますか、ほとんど今日のように頑強にこれを否定しているとすれば、どういう方法か考えて、個人的に帰国を許すとかなんとかいうような方法で帰す方法はないかということを、私は非常に素朴でございますから、この問題はもっと素朴に考えてもいいと思うのです。国連憲章やあるいはその他のことを考えれば、国内的なごく一部の人たちが問題を押えておいて、そうしてそれを広く客観的に考える余裕を失っておるという状態は非常に困ると考えます。この間アジア平和会議に行った人たちが北鮮に行ったが、向うでは学生や技術者――これは要望が行き届いていたかどうかと思いますけれども、ともかく受け入れる、いつでも帰ってきてもらいたい、学生はただで教育してやろうというようなことがやはり新聞に出ておりましたけれども、そういうことを考えれば、これはどちらも国交がないということでは同じですから、どちらを選ぶということの意思表示は要らない。ともかく人道的な問題からだけでも帰りたい人たちを送ってやるということは、こちらで受け取ると同時に考えていいのではないかと考えるのであります。その点はどういうふうにお感じになっていらっしゃるか、あるいは今後の努力をその方面にお向けいただけることができるかどうか、それも何か大きな障害があってできないのか、それを承わりたいと思います。
○小泉政府委員 先ほど韓国人でこちらにおる者で韓国の方へ帰りたいという者は一人もないと申しましたのは、一人もないといっていいくらいにほとんどない、こういう意味を申し上げたのでありまして、確実に全然一人もないということでなくて、一人もないといっていいくらいにほとんどが向うに帰りたがらないのだということを申し上げたわけでございますから、この点は特に念のために申し添えておきます。
また北鮮の問題につきまして、技術者その他一部の者が帰りたいということである、そういう者はできるだけ本人の希望に沿うように帰してやり、また向うから入ってきたい者は入れてやるというようなお考え方は、私どももそういうふうにできることを最も望ましいこととして希望しているのでございます。ただ今も北鮮の一部の者が帰りたいということはまだ全然具体化しておりませんで、在日北鮮の団体の一部の人々がそういうことを最近希望的に言い出しておるという程度でございまして、これがまだ北鮮の政府とこちらの方とも具体的には進展をしておらないのでございます。また向うの方も、新聞等の情報では、帰ってくるならば受け入れるというような記事もあったかに記憶いたしまするが、これも具体的に日本の外務省と北鮮の正式機関との間に、日本から帰すものをば受け入れるというようなところまで具体的に話が進んでおりませんので、こういう点をもっと推進をして具体化していきたいと考えておるのでございますが、これは御承知の通り、外務関係をば含むところのきわめて重大な問題でもございますので、十分慎重に取り扱っていかなければならないと考えておるのでございます。要は先ほど来申します通り、こちらから帰すものをば向うが気持よく受け取ってくれる、こういう関係ができ上らないところにこの問題の難点がございまして、まさか荷物か何かみたいに勝手に向うの波打ちぎわに置いてくるというようなことはとうていできないのでありまして、やはり向うとすっかり話がつきましてこちらからは帰す、向うはちゃんとそれを受け入れるというようなことが文字通り確実に話がまとまらなければ行動に出られない点をば御了承をいただきたいと思います。今神近先生が仰せられますることは当然そうあるべきことである、当局としてもぜひそういうふうにあらしめたいということを熱願をいたしておって、具体的にそうあらしめるべく双方の間の関係を今後とも十分熱意を持って推進をいたしたいと考えます。
○神近委員 大体あなたの御意思はわかりました。そしてそれが法務大臣の御意思であるように私は望みたいと思います。
もう一点伺っておきたいことは、この問題はこれは内田局長にもお聞き取りを願いたいのです。私どもが戦争以前の朝鮮との問題を今処理するということが、一つの人道的な義務であると私は感じます。それでなるべく親切になるべく早く解決の緒につくように、こういう民族の大集団が無籍者のようになって、ないし日本人としての特別の待遇は得られないで、ともすると抑留所にほおり込まれるというような不安な状態にある今、次官がおっしゃったように、もし北鮮からでも話かけがあって、そうして受け入れということが確実に話合いができるならばその話に乗って、それは今国交がないのでございますから、たとえば赤十字を通じての話であるとか、あるいは第三者のどこかの国の領事とか公使とかのあっせんというようなことになるのではないかと思うのですけれども、ほんとうに受け入れるということが確認できればそれにお乗りになって、そうして交換船というような形でもこれをとりやりするということがおっしゃれるでしょうかどうか、ちょっとそれを伺っておきたい。
○小泉政府委員 たとい外交関係がございませんでも、今仰せられましたような第三国のあっせんとか、あるいは赤十字というような特殊な団体のあっせんで、さようなふうになることは当局として最も望ましいことと考えておるのでございます。ただ問題は具体的に、確実に向うが受け入れるというようなこともございますが、それ以外にもっと大きな問題として、北鮮と韓国との関係がございまして、御承知の通り中ソ外交というような鳩山内閣の方針が韓国の感情を非常に刺戟して、先ほど私が申し上げましたように金公使が引き揚げるというような情報すら流れているというような関係で、御推察が願えると思うのでありますが、今後北鮮の人々をば、希望者を日本から帰す、また在留している北鮮からの日本人の帰る者を受け入れる、こういう問題もいざ具体的に交渉が進み、進展をするというようなことがありといたしまするならば、また韓国との問題というものが非常な難点になってくるのではないかということをひそかに憂慮をいたしているのでありまして、いろいろなそういう難点を克服できますれば、できるだけそういう事態をすみやかに到来せしめたいということをば希望をいたしている次第でございます。
○神近委員 ごもっともと申し上げたいのですけれども、それでは何も問題の解決を企図されているということは言えないのじゃないかと思うのです。私が考えていただきたいということは、これは国民の問題として、政治形体の相違の問題ではない。南鮮といい、北鮮といい、人種は同じであって、朝鮮人という名前におきましては同じ国民であります。それでともかく南鮮とあまりうまくこちらの希望通りには何一つのことも進展していないわけでしょう。そうすればその間朝鮮の人たちが宙ぶらりんになっていて、本人たちも非常な苦しみを受け、われわれ日本人もそのために多大の負担をさせられて、心理的にも経済的にも、また行政的にも非常なるめんどうをこうむっている。そこへ何とかもっとそういうふうなことにとらわれないで、即決的に民族同士の問題として解決することをお考えにならないかと私は伺っている。大体あなたが韓国との関係や、それから北鮮との離反の状態を御考慮になっているということはわかりますけれども、ともかく私どもの民族の過去の問題を、私どもが今処理しなければならない立場にある。そうしてその処理には何が必要かといえば、人道的な感情的な、こういう国と国のささたる――ということは言えませんが、あまりに多くそれに縛られないで、もうちょっと気を大きくして、人間的な感覚から早くこれを何とか解決して、どんな困難をも突破してやってみるという考えはないかということを伺いたいのでございます。
○小泉政府委員 これは、全く根本的には人道上の問題でございまして、外交関係その他にわずらわされずに、そのことはそのこと自体だけで勇敢に解決したらいいじゃないかというお気持はよくわかるのでございます。もちろんそれで解決がつくことでございますれば問題はそう難儀でもないと思います。外交関係にとらわれるというようなことでなくて、そのこと自体を解決する上において、外交問題がまずスムーズにいかなければ、勇気を持ってこれを断行しようとしても、実際上この事柄が完全に行えないのではないかというようなことも当然予想されるのでございます。たとえば韓国からどういう文句を言ってこようが、人道上の問題として、日本と北鮮だけの間でこれを勇敢に突破して片づけるとかりにいたしましても、韓国がいろいろな抗議を申し込んでくる、あるいは武力に訴えてそのことの運びをば妨害をするというようなことが予想せられるときに、ただこれを、外交上そういう外国の問題は問題にしないで、このこと自体の解決のためにこれを強行するということは、やろうと思ってもでき得ないのじゃないかということも考えられるわけでございます。もちろんこの問題の解決の基本精神においては、神近先生の仰せられることは私もよく理解ができ、また共鳴ができるのでございますけれども、事柄を具体的に行う上においては、やはり、外交関係にとらわれるということでなくて、その事柄自体をスムーズに行うためには、そういう難点も除去してかからなければ実際に行えないのではないかということに苦慮をいたしておるのでございます。事柄自体の解決とともにそういう方面も、できるだけ外交関係を打開しながら、両々相待って、これが並行して進まなければ、実際の上にはこれができないのではないかということを考える次第でございます。問題の重点は、外交関係に重点を置くのではなくて、人道問題として、その事柄自体をばまず第一義として解決すべきでないかという御意見は全くごもっともでございますが、ただそれを解決する上には、外交問題あるいは韓国の意向というような問題も、とらわれまいとしても考慮に入れざるを得ないという実態であることも御了承をいただきたいと思うのでございます。
○神近委員 それではさっきの、正当な方法で北鮮側がこれを受け入れるという確実な保証があれば話に乗ってもいいということは、何もならなくなりましたね。その場合でも同じような障害、たとえば赤十字とかあるいは第三国の人たちがこれを扱うということで、こちらの承認できる確約が与えられましても、その外交問題が歴然として残っていると、それは突破ができないということになりますね。
○小泉政府委員 それは神近先生の幾らか誤解ではないかと思うのでございますが、私の気持にはそういう考えは全然ございません。あくまで最初申し上げました通りに具体的な交渉が進んで、これが円滑に、スムーズにいくものであるならば、できるだけそういう事態に持っていきたい、そういうことを推進したいと願っているのであるということに何ら変りがないのでございます。あとから韓国の問題が出ましたので言及をいたしましたが、これもやはり具体的にこれが完全に支障なく行えるという環境の中に韓国の問題も入るのでございます。そういう事態が解決をせられ円満に事が運ぶのであるという見通しがつくならば、もちろんそれに政府は反対をするのでもないし、むしろ推進を希望するのであるという、私が申し上げましたことは少しも変りないと思うのでございます。韓国の問題も、韓国からの故障があったらやめるというのではなくて、そういう韓国方面からの故障もあり得るであろうというようなことも例に引きまして、具体的に事を進めていくには非常にむずかしい難点がある、また慎重に研究をしていかなければならない問題であると申し上げまして、もちろんこの韓国の問題等も具体的に事を進めていく上の解決をすべき一つの問題ではないかということを言及したにすぎないのでございます。韓国から故障でもあるからこれはやらないのであるとかというようなことではないのでございまして、そういうことも十分打開する努力をしながら、具体的にこれが行えるという見通しがつき、そういう時期に到達したならば政府は決して反対をするのではない。むしろ推進を願っているのだということを申し上げたのでありますから、この辺のところを、私の言葉の足らない点があるかもしれませんけれども、御理解をいただきたいと思います。
○神近委員 大体これだけのことで要約してみますと、当分どうにもならないという結論に来そうに私は思われます。持って回った言い方をお互いにいたしましたけれども、現状打破はちょっとなかなかできないだろう。花村大臣の在野当時の御意思を一つ思い出していただいて、そしてどこかに打開策はないかということで、これから次官が中心になって考案なさる、その考案において、今の親切な意図、お心持を持ち続けて、国際的に見回して、どこかにこれを可能にする穴はないかというような御研究を願いたいということを申し上げまして、あなたに対する御質問を終ることにいたします。
それから内田局長にちょっとお伺いいたしたいと思います。大村の抑留所の中に内規というものがあるそうでございますけれども、それはどういうような要項の内規でございましょうか。
○内田政府委員 お説のように一応の内部の秩序を維持いたしますための規則がございます。ただいま手元に持っておりませんので、後日資料として提出いたします。
○神近委員 その中に検閲制度もあるわけですか。
○内田政府委員 あそこの収容所内の警備の必要のための検閲ということはございます。
○神近委員 それは、外国に出す手紙だとか、あるいは何か警備上必要で、外に通報するというようなことに検閲制度があるということは想像されますけれど、普通の書信に検閲があるということは、私どもは非常におかしなことに考えるのです。たとえば私どもに出す手紙に検閲がしてあったということになれば、中の模様を外に知られたくないというような意図によるのじゃないかというように、私たちはひがんで考えるわけなんです。一体特に国会議員に対する手紙や何かにその検閲がしてあるというのは、一体どういうことなんですか。
○内田政府委員 特に国会議員に対してどうこうというようなことは、全然われわれは念頭に置いてないのですが、出入国管理令の第六十一条の七という条文がございます。その条文の第五項に「入国者収容所長又は入国管理事務所長は、入国者収容所又は収容場の保安上必要があると認めるときは、被収容者の発受する通信を検閲し、及びその発受を禁止し、又は制限することができる。」こういう規定がございまして、これに基いてやっておるわけでございます。
○神近委員 私が今問題にしておりますのは、広島で起りました爆発物取締罰則違反の三人の勾留理由開示の日に、たまたまそこに傍聴に行っていたためにつかまって刑を受けた人がいるのです。その人が一年の入獄中に滞在手帳の更新をやっておかなかったために、滞在期間が切れて大村に入れられてしまったという事実があるのです。そういう監獄にいる間に滞在期間が切れたというようなときには、特別に手続をやるというようなことはしてやらないのですか。そして滞在期間が切れたままで監獄に入れておくということは、一体できることなんでしょうか、できないことなんでしょうか。
○内田政府委員 ただいまのケースはよく具体的に調べてから詳細にお答えいたしたいと存じますが、少くとも私どもが実際取り扱っておりますやり方から申しまして、刑務所に行っている間に登録切りかえが行われなかったということを理由にして退去させるというようなことは、絶対にやっておりません。のみならず刑務所には十分に通知をいたしておりまして、刑務所におります人は、何かの手落ちがございません限り、登録の切りかえはできておるはずなんでございます。しかし万一何か手落ちがどちらかにございまして行われていないといたしましても、それのみの理由で退去させるというようなことは絶対にやっておりません。ですからただいまの事例もよく調べてみますが、それが理由であるということはちょっと考えられないところでございます。
○神近委員 その出入国管理令二十四条に、この場合がかかっているというと、私もちょっと今ここにございませんけれども、けさ見たところによると、滞在の期限切れというような項目も入っていたと思いますが、大体どの条項に当てはまるのか、それを一つよく教えていただきたいと思います。
○内田政府委員 ただいま申し上げましたように、その事件を具体的に調べてみませんとはっきりしたことを申し上げかねますが、おそらくはその爆発物取締罰則に基きましての刑が一年以上をこえておったために、二十四条の四号のりに該当するということになっておるのではないかと考えます。しかしこれは想像でございます。そういうものが別にございませんのに、今の刑務所にいる間に登録が行い得なかったという理由で大村に送るということは、ちょっと考えられないことでございます。
○神近委員 これはこの前の内閣のときからの懸案で、大村の人たちは多少緩和して、無害で、身元、身寄りの保証がはっきりしているような場合は出したらいいじゃないかということで、多少緩和された形跡があるのですけれども、今五千円以上の保証金を納めて確実な引取人があれば渡しているというような事実があるそうでございます。何人ぐらいその手でお出しになっているわけでしょうか。
○内田政府委員 実はただいまの保証金五千円というのも、先般法務省令を改正いたしまして千円に引き下げてございます。なるべくそういうことをただ貧困であるというためにできない方をなくしたいというふうに考えております。現実にどれだけを釈放したかという話でございますが、これは六月六日付でございますけれども、実はこれはいろいろの話し合いの関係もございましたが、ともかく二百三十二名を釈放いたしました。
○神近委員 それで韓国から最近三十名ほどの子供たちが入ってきた。おとなは三十何人逃げてしまった。私たちから見ますとおとなこそ抑留して、送還されてもしかたがないのですけれども、親をたより、兄弟をたよりにして来た子供たち――自分たちがおとなをつかまえることができないものだから無力な子供たちだけつかまえて、子供だけ送還する、あるいは抑留所に入れる矛盾というものはお考えになったことはないでしょうか。私どもはその点は大へん非難されなければならないと思うのです。まるで何も意識のない、そうして日本に対して害を加えるというおそれのない子供たちだけつかまえて、食べるためには何でもやるだろうというようなおとなだけを野放しにしておく。まあ野放しになさるおつもりはないでしょう、力が及ばないとおっしゃるだろうと思うのですが、それならばどうして子供たちをぜひとも帰さなければならないか、それでなければ面子が立たないとおっしゃるか。特に親がそろっていて、韓国には身寄りも何もないというような場合にこれをたたき帰す、あるいは抑留所に入れて、そうして韓国のオーケーと言う時を待つ、こういうような手続を煩瑣にして、扶養する者がいるのに国家に扶養を委託されるということは、私どもはお願いにも上ったことですけれども、どうもその点で納得ができないのです。今次官から三十人の子供たちは送還することに決定したということを伺いまして大体御意図がわかるように思うのですけれども、そこのところを何とか一つ考えていただけないか。この韓国の子供たちは日本で生まれている子供がだいぶ多いのですよ。それが何かの事情で帰っていって、こちらに帰ってこられない非常にかわいそうな条件が十分そろって、親が生業をして日本で生計を立てている、そうして子供ができなくて、あとの子供がなくてこの子供を何とかしてこっちにとめ置いて、自分の後継者にしたいというような切実な願いを持っておるというような場合でも、これをぽんと返してしまう。あるいは抑留所に入れてしまう。そして国の費用でいつ解決するか知れない時までそこへ入れて、学校にもやらない、あるいはよい給食もできないというような状態に置くということは、私は悲惨の極だと考えます。その点で、六十人のうちで三十人のおとなを逃がして、三十人の子供にその責任をしょわせるというような考え方が親切であるかどうかということについて、一体どういうように感じていらっしゃるか、伺いたいと思います。
○内田政府委員 ただいまの御質問にお答えいたしますためには、われわれ入国管理局といたしまして、密入国の問題をどういうふうに扱っておるかという全般的な角度からお答えいたしませんと、十分に御納得がいかないと存じますが、実は先般こちらの委員会におきまして、相当広いろいろな角度からその問題についてお答えいたしましたのですが、ごく簡単にかいつまんで申し上げます。
われわれといたしましては、これは国際的な一般の原則でもございますし、大体日本に入国する者は、旅券と査証を持ってきておらなければ困るということを当然の原則といたしておるわけでございます。しかしながら、こちらでも再三問題になっておりますように、従来、この間まで日本国民であった人々、しかも偶然に敗戦という機会によりまして、家族が別れ別れになってしまったというような者につきまして、何らかの人道的な考慮が払われなければならないということは、私ども自身も十分考えておるところでございます。実際一般的な原則の問題と、人道的あるいは人情との問題をいかにして調和していくかということは、われわれの業務の一番苦慮しておる点であると申し上げても過言ではないのでございます。ただその際に、これは今の原則とからむ問題でございますが、われわれといたしましては、現行犯でつかまった者はやはり原則として帰すということにいたしておるわけでございます。これも国際慣行が第一の理由でございますが、そのほか実質的に申しましても、現行犯でつかまった者をさらに区別いたしまして、その中で許可する者をえり分けるということはなかなか困難でございますし、またそれをやりますことによりまして、かえってわれわれのやっておることが公正でないのではないか、何か特殊の連絡があるとか運動したとかいうことによって、左右されておるのではないか、こういう印象を与えますことは、はなはだわれわれとして心苦しいことでございますのみならず、対外的信用の観点からいたしましても、おもしろくないことだと思っておるわけでございます。
それからもう一つ、少し話が飛びますのですが、密入国というものは御承知のように、非常にポテンシャルな危険性をはらんでおる問題でございますので、密入国の阻止ということは、遺憾ながら今まで不十分でございますが、この上とも努力しなければならないことでありますのみならず、現在におきましても、海上保安庁等が非常に少い施設、人員におきまして、一生懸命努力しておられるわけでございます。また警察も警察で陸に上った直後等につきましては、いろいろ報奨金などを出しながら現行犯をつかまえるのに苦労しておられる。そういう状態におきまして、中央の法務省に問題を持ってくるとどんどん許可されてしまうということになりましたのでは、現場においていろいろ苦労をせられておる方々の努力を全く無にしてしまうということになり、ひいてはこういう密入国の問題が非常にルーズになっていくおそれが多分にあるわけでございます。
それからもう一つ、集団密航の場合には、大体今現行犯でつかまる場合にはそうなのでありますが、ほとんど例外なしにブローカーが介在しております。それでこのブローカーたちは、もちろんその手数料というようなものは初め取っておるのでありましょうが、成功報酬のような形になっておる例が多いようでありまして、結局われわれが現行犯でつかまえた者までも許可していくということになりますと、そういうブローカーたちを喜ばせるというような結果にもなるわけであります。われわれができるだけ密入国というものを阻止したいという根本の方針と矛盾するような結果にもなるわけであります。そういうような関係によりまして、現行犯でつかまった者については、その場合たまたまその方が女であるとか子供であるとか、あるいはおとなの場合もありましょうが、とにかくそういうことの区別をいたしませんで、原則として退去という線を出しておるのはそういう理由からでございます。それでおとなが逃げてしまって子供だけが残ったというのは、実は最近たまたま起った一つの極端な例なのでありまして、普通の場合は、大体おとなも子供も一緒につかまっておるのでありますが、ある一つの例は、まさに先ほど次官からもおっしゃいましたように、おとなたちは逃げてしまって子供だけ三十人ほど残されておるのがつかまったというような事態が起ったわけであります。これは人道的に考えますと、御説のようにいろいろ気の毒なこともあろうかと思っておりますが、しかし、ただいま申しましたような、こういう入国管理をいたします基本的な建前から申しまして、現行犯でつかまった者についてそう寛大な処置はとり得ないのではないかとわれわれとしては考えておる次第でございます。
○神近委員 非常に公正を期してやっていらっしゃるということはよくわかります。けれども子供とおとなに公正を期するということは、やはり一つの悪公正じゃないかというふうに考えます。子供は交渉をすることもできないし、それから、こじきはするかもしれないけれども犯罪を起すという危険もないというふうに考えて、子供だけは別に御考慮いただいてもよいのじゃないかということが一つ。
それから、もし今これらの子供たちをまた大村の抑留所に入れておしまいになり、そうして事情によっては保証金として千円以上の金を納めて、十分保証のできる人が外におれば、これは預けてもよい、これをお出しになっていくということになった場合、その子供たちに引受人があるとして保証金を積むことができれば、韓国にいつ引き揚げられるかわからないその暫定的の間だけでも、これを許しておくということができるものでしょうか、それを一つ承わります。
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